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あなたのしつけが子どもを苦しめている?

子どもがいじめを打ち明けられる親子関係

子どもがいじめを打ち明けられる親子関係とは

最後に、家族が傍観者にならないためにはどうすればいいのかについて考えてみたい。

例えば、子どもが学校でいじめに遭っていて、親がそのことを知らないとき、親は四層構造の外にいる。加害者でないことはもちろんだが、観客でも傍観者でもない。

ところが家族の場合は、よく話を聞いてやるという、第1ステップからして難しい場合がある。そこに最大の問題があると言えるだろう。

森田先生らの調査によれば、自分がいじめられているという事実を、親に話していない子どもが相当いるらしい。特に男の子に多いようだ。その子が誰かに話している場合でも、相手はたいてい友だちである。教師にもあまり話していない。

教師はどうせわかってくれないという絶望感のようなものがあるのかもしれない。実際、事なかれ主義の教師も多いので、そういう思い込みもわからないではない。

なぜ親に話さないのか? 男の子の場合、自分が弱虫だと思われるのが嫌だからだ。家庭によっては、「男は強くなければいけない」「いじめられたら、いじめ返せ」といったしつけをしている父親がいまだにいるようだ。

そのような親に「いじめられている」と言ったら、期待を裏切ることになる。だから言えないわけだ。いじめによる自殺が圧倒的に男の子に多いのは、こういう親が子どもを追い詰めやすいからかもしれない。

学校などで理不尽な目に遭っているようなら、子どもがそれを報告できるような親子関係をつくっておくことが必要だ。兄弟姉妹でもいい。南幌町事件の長女は、妹にとってそういう存在、話のできる唯一の家族だったのかもしれない。

大切なのは、子どもが親の期待するような完璧な存在でなくても、受け入れることだ。「いじめに負けない強い子」あるいは「勉強ができて、トラブルを起こさない子」しか認めないというメッセージを送り続けていたら、子どもはいじめを打ち明けないだろう。

「あなたがテストに失敗しても、学校でいじめられて恥ずかしい目に遭っても、お父さんもお母さんもあなたを受け入れる」

そういう姿勢を普段から見せておくことが、子どもの心を開くのだ。

わが子にいい子でいてほしいと願う気持ちは、誰でも持つ。それはいい。ただし、完璧主義に陥らないことだ。

子どもが問題を起こしたときには、「そんなんではダメだ」と頭ごなしに決めつけるのではなく、まず話を聞く。「何があったんだ?」と聞き、「どうしてそんなふうになったのかな?」と状況を尋ねる。そのうえで叱るべきは叱ってもいい。

そういう姿勢で向き合っていれば、子どもは「いい子ではない自分」を、親に見せてもいいのだと思える。そういう親子関係であれば、子どもがいじめられたような場合でも、親に打ち明けやすいはずである。

 

*南幌町家族殺害事件……2014年10月1日未明、札幌から30キロほど東にある北海道の南幌町に住む当時高校2年の女子生徒が、同居していた母親と祖母を包丁で切りつけるなどして殺害した事件。女子生徒は祖母、母親、長女とともに暮らしていたが、祖母からは疎まれていたという。事件直後から姉が女子生徒をかばおうとしていたふしがあり、2016年2月には姉が女子生徒に睡眠導入剤を渡していた疑いから殺人幇助の罪を問われ、起訴内容を認めている。

 

<『他人の支配から逃げられない人』より抜粋>

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片田 珠美

かただ たまみ

1961年広島県生まれ。精神科医。京都大学非常勤講師。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第八大学でラカン派の精神分析を学ぶ。臨床経験にもとづき、心の病の構造を分析。著書に『無差別殺人の精神分析』(新潮選書)、『一億総ガキ社会』(光文社新書)、『一億総うつ社会』(ちくま新書)、『他人を攻撃せずにはいられない人』『プライドが高くて迷惑な人』(ともにPHP新書)、『他人の意見を聞かない人』 (角川新書)、『正義という名の凶器』(小社)、『賢く「言い返す」技術―人に強くなるコミュニケーション』(三笠書房、近刊)などがある。


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  • 2015.03.07